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ファイブワン コンテンツ ナンバー12 英国製 ハンドメイド 釦

日本初上陸を果たした『ベンソン&クレッグ』は、英国王ジョージ6世より、王室の公式テーラーとして英国王室御用達のロイヤルワラントを授与され、英国で最も高品質なハンドメイドス-ツを生み出しているビスポークテーラーですあり、エナメルやメタルのハンドメイド釦やカフスリンク等で世界的に有名なブランドです。今回は、マネジングディレクター マーク・ゴードン氏とヘッドカッター トニー・マーティン氏を迎え、テーラリングをはじめ、さまざまな視点からお話を伺いました。

<ベンソン&クレッグ マネジングディレクター マーク・ゴードン氏 プロフィール>
大学で政治を学び、ロンドン警視庁で諜報アナリスト、海外のインターナル・インベスティゲーションを務めたのち、2014年よりベンソン&クレッグのマネジングディレクターに就任。同店が授与された公式テーラー、英国王室御用達のロイヤルワラントの管理人であり、プリンス・オブ・ウェールズ及び王室一家の求める品質を保証する責任者でもある。

<ベンソン&クレッグ ヘッドカッター トニー・マーティン氏 プロフィール>
テーラー一家に生まれ、21歳の時、サビル・ロー1番地、ギーブス&ホークスのマスター・テーラー、ブライアン・ジェフェリー氏のもと、アンダーカッターの見習いとして、仕立人のキャリアをスタート。その後、ベンソン&クレッグに移り、かつてのマスター・テイラー、ケネス・オースティンのもと、アンダーカッターとして研鑽を積む。それから15年以上経った現在は、ベンソン&クレッグのヘッドカッターとして、不動の地位を確立している。

英国屈指の老舗テーラーメゾンが理想とするスーツ

岸由利子(以下、岸):マークさん、トニーさん、本日はようこそお越しくださいました。早速ですが、マークさん、スーツといえば英国が発祥の地。ベンソン&クレッグの歴史やブランドについて教えてください。
マーク・ゴードン氏(以下、マーク):ベンソン&クレッグは、1937年、ハリー・ベンソン氏とトーマス・クレッグ氏の2人のテーラーによって創立されました。つまり、来年、創業80年を迎えることになります。
岸:おめでとうございます。
マーク:ありがとうございます。ベンソンも、クレッグも、英国の老舗テーラー『Hawes&Curtis』でカッターとして働いていました。30年近く経験を積んだのち、自分たち独自のスタイルで顧客にテーラリングを提供したいと考え、独立に至りました。当初は、ベンソン&クレッグのフラッグシップストアのあるすぐ近く、バーリーストリートに店を構えていました。舞台や映画で活躍する著名人など、前職場の顧客たちがこぞって予約を入れ、出だしからたいへん盛況だったと聞いています。

当時の最も有名な顧客は、英国王ジョージ6世です。ブランドにとって、この上ない名誉であり、さらには1944年、同王より、王室の公式テーラーとして英国王室御用達の紋章(ロイヤル・ワラント)を授与されました。それ以後、ビスポークテーラー以外にも、レディ・メイドの紳士服、ハンドメイド釦、アクセサリー、ネクタイ、カフリンクスなどを取り扱うようになり、実に多角的な発展を遂げてまいりました。

また1992年には、プリンス・オブ・ウェールズへのボタン、ワッペン、ミリタリー用のネクタイの供給に対して、紋章(ロイヤル・ワラント)を授与されました。これは当社だけが唯一、英国で保持しているものです。現在に至って、さまざまな製品を扱っています。
岸:80年の間に、多くの偉業を成し遂げられたのですね。
マーク:そうですね。ビスポークテーラーとしてスタートした当初より、ビジネスははるかに拡大しました。しかし、ラグジュアリーにフォーカスした本物志向の紳士ブランドであることに変わりはありません。

ラグジュアリーの本質を熟知する日本の方たちに、伝統的なイギリスの“本物”を提供していきたい

岸:トニーさん、近年、イタリアでは、よりカジュアル化が進んでいるように見受けられますが、英国ではいかがですか?ブリティッシュ・スーツも、時代とともに変化しているのでしょうか?
トニー・マーティン氏(以下、トニー):私はそうは思いません。英国のスーツは、非常にフォーマルで構築的、対してイタリアのスーツは、非構築的で、生地も軽量です。キャンバスもとても軽いものを使いますし、肩パッドやゆきわたも、使っていない場合がほとんどです。英国では、全体としてスーツスタイルにとりわけ大きな変化はないのですが、ひとつ挙げるとしたら、週末やイブニングの装いが、フォーマルすぎないことでしょうか。でも、基本的には、伝統的でフォーマルなスタイルが主流です。イタリアの洋服は美しい手法で作られていますが、私たちのスタイルとは違うものです。
岸:週末やイブニングに、フォーマルすぎない装いを…とおっしゃいましたが、具体的にはどんな装いなのでしょうか?
トニー:ある意味、私たちが生きる世界はとても小さな“スモール・ワールド”です。人々は、よく旅をしますが、仮に、イギリスのビジネスマンが日本やアメリカに出かけたとしましょう。そこで彼は、母国にはない非構築的な衣類を目にします。例えば、裏地のないコート。本来、あるべきものですが、それによって、重すぎない羽織が完成します。また、Tシャツやカーディガンの上にジャケットを着用するとしたら、それほど大きな肩パッドの必要はなくなります。一例ではありますが、フォーマルすぎない装いとは、このようなスタイルのことを意味しています。
岸:ベンソン&クレッグをより多くの日本の方々に知ってもらい、その良さを広めていくうえで、重要なポイントについて教えてください。
マーク:日本では、ラグジュアリー・グッズに対して大きな需要があると思います。ここで意味するのは、英国のラグジュアリー・グッズですね。私たちは、一切の手を抜くことなく、伝統的な手法や生産方法を長きにわたって維持し、“メイド・イン・イングランド”の製品を専門に提供するカンパニーであり、それを誇りに思っています。また、ブランドを発展させ、新しい商品を市場に打ち出すことにも尽力しています。

しかし、前進しつつも、私たちはイギリスのビスポーク・テーラリングのコア・バリューとスピリットの粋を抜くベンソン&クレッグの中核からぶれることはありませんし、そこから離れることはしたくありません。あくまでも、伝統的な価値を維持していくこと、それが使命なのです。自社の遺産に対して敬意を払っている-まぎれもないこの事実こそが、日本のお客様にアピールできる点ではないかと。これは極めて重要なことだと思います。

トニー:私たちの釦はひとつずつ手で作られています。それぞれに特有の打ち方、染め方があり、仕上げもすべて手作業で行っています。日本の方々は、とりわけ美しいディテールにこだわる傾向がありますよね?いくつかの釦は、2つのパーツから成り立っていて、僭越ながら、ディテールは素晴らしいものですよ。
岸:すべてが手で作られているとは知りませんでした。

“世界に一着のスーツを誂える興奮”をぜひ体感して欲しい

岸:英国王室のロイヤルワラントを取得されていますが、詳しく教えて頂けますか?
マーク:ベンソン&クレッグにおいて、私自身、最も誇りに思っていることです。先にもお伝えした通り、英国王ジョージ6世より、王室の公式ーテーラーとして英国王室御用達の紋章(ロイヤル・ワラント)を授与されたのがひとつめです。

ロイヤル・ワラントは、“品質の高い製品とサービスを自信を持って供給している”という証です。私たちは、プリンス・オブ・ウェールズ及び王室一家に対して、ボタン、ワッペン、ミリタリー用のネックウェアの供給を行っていますが、厳しい申請条件や審査基準をクリアしたカンパニーにのみ与えられるもので、一回の認可は5年間のみとなっていま 5年ごとに見直しがあり、品質の低下などがあれば、取り消されてしまうので、ワラント保持者は称号に甘んずることなく精進を続けるのです。そして、王室より認められたものと同様の品質とサービスをすべての顧客に対して、維持しています。
トニー:マークの今の発言には、すべての顧客に対して、平等に接するということも含まれています。すなわち、誰に対しても、私たちは常に、同じスタンダードを提供するのです。
マーク:イギリスという一国の王であろうと、ストリートを歩いている人であろうと、同じクオリティの製品とサービスを提供するということですね。
岸:ところで、個人的にひとつお聞きしたいことがあるのですが、現在、ベンソン&クレッグには何名のカッターがいるのですか?
トニー:私ひとりだけです(笑)。 師匠である、ギーブス&ホークスのブライアン・ジェフェリー氏やベンソン&クレッグのケネス・オースティン氏がかつて私にそうしてくれたように、今、数名をトレーニングしていますが、そのうち、2~3人がどのように成長するかを見ているところです。テーラリングを学ぶのは難しいことですし…
岸:修行には、膨大な時間がかかりますよね。
トニー:その通りです。簡単なことではないですし、一筋ではいかないですね。
岸:マークさん、トニーさん。最後に、ビスポークスーツを愛する日本の男性に、メッセージをお願いできますか?
マーク:初めてビスポークスーツを誂えた時のことを今でも覚えています。それは、とても心を揺さぶられる体験でした。生地、釦、スラントポケットの角度、ラペルの幅など、自分のスーツに関するすべてのデザイン要素を自分自身で決めることができるのです。大いなる“変身”とも言える、その人の個性を際立たせる極上の一着が、優れたカッターやテーラーたちの手によって仕上げられていく…ぜひ日本のジェントルマンの皆さんにも、ハンドメイドの釦を楽しんでいただき、同じ興奮を味わっていただければと思います。
トニー:ファイブワン・ファクトリー製のスーツは、日本では最高峰のクオリティだと思います。作る工程もしかり、素晴らしく体にフィットするスーツです。
岸:日本の縫製、イタリアのディティール、イギリスの釦。これらをミックスしたスーツにおいて、これら3ヶ国の融合はとてもユニークですね。
トニー:はい、素晴らしいですね。
岸:お二方、ありがとうございます。英国屈指のテーラー・ベンソン&クレッグのマネジングディレクター マーク・ゴードン氏、ヘッドカッター トニー・マーティン氏を迎えてお届け致しました。マークさん、トニーさん、本日は貴重な時間を共有くださり、ありがとうございました。

<インタビュー&文:岸 由利子 プロフィール>

イギリス、セントラル・セントマーチン美術大学でファッションデザインを学ぶ。同校の学士号(Bachelor of Arts)・FDM (ファッションデザイン・ウィズ・マーケティング)科を主席で卒業。在学中、スーツの聖地、サヴィル・ロウの英国王室御用達テーラー「ギ-ブス&ホークス」にてメンズスーツのテーラリングを修業する。帰国後、ブランド『マルコマルカ』を創立し、東京コレクションにて最年少女性デザイナーとしてデビュー。ファッション界で活躍したのち、文筆業に転身。現在は、オーダースーツ・時計・車など、メンズファッション・ライフスタイル分野を中心に、ビジネス・芸術・社会・文化・政治などの分野で執筆中。