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ファイブワン オーダースーツ トークセッションナンバー05 ゲスト:ゴーダグループ代表 株式会社ジー・トライ 代表取締役 合田陽一氏

ゴーダグループ代表
株式会社ジー・トライ
代表取締役 合田陽一氏

スーツの聖地・サヴィル・ロウで修行した偉才、岸由利子が聞き出す、オーダースーツの魅力。

『ファイブワン・トークセッション』第5回のゲストは、ゴーダグループ代表兼株式会社ジー・トライ 代表取締役の 合田陽一氏。合田氏は、東京・東日本橋の株式会社ジー・トライ、大阪・阿部野区のゴ-ダEMB株式会社を日本国内の拠点とし、深セン、上海、バングラデシュなど、独自の刺繍工場を多岐に展開する刺繍の総合メーカー・ゴーダグル-プの3代目代表。創業者である同氏の祖父が、祖となる会社を興したのは今から約80年前のこと。その後、1985年より、いち早く中国での展開を進め、グローバル企業へと成長させたのは、同氏の父です。

時代が変わっても、グループの根底に流れるのは、小さな針が最初のひと針から次々と糸を結び、次第に大きくなる様を表す「穿針引線(せんしんいんせん)」のスピリット。「刺繍はまさに一針一針の積み重ねで美しい図案を表現する」という飽くなきこだわりと共に、さらなる進歩・発展を目指して、熟練の職人たちと手を携えながら、邁進する日々を送られています。

今回は、ファイブワン ブランディング室 室長兼ファイブワン大阪本店 店長の中吉俊貴氏を対談者に迎え、 オーダースーツを仕立てる時のこだわり、中国でのビジネス展開やバラエティに富む趣味に至るまで、多岐にわたるテーマについてお話いただきました。

津軽三味線、野球監督、中国語。ピンと来た趣味は「とことん楽しむ、取り組む」のが流儀

質問 : 合田樣、中吉樣、本日はお忙しい中、ありがとうございます。早速なのですが、合田様は津軽三味線、野球監督、中国語と、多彩なご趣味をお持ちだそうですね。まず、お聞かせください。どのようなきっかけで、津軽三味線を始められたのですか?
合田陽一氏(以下、合田): 浅草に「追分」という昭和32年開業の民謡居酒屋がありまして、1日3回、プロを目指す若手の芸人さんたちが、ライブ形式で津軽三味線のショーを披露しているんですね。現存している中では、若手芸人の育成にも力を入れている、最も歴史ある民謡酒場で、あの吉田兄弟の兄、吉田良一郎さんも修行をしたひとりだそうです。女将さんによると、やはり食べていくのが中々厳しい世界のようで、芸人さんたちは皆、お客様に給仕しながら、演奏時間になると舞台に立たれるんです。6、7年前に初めて見た時、「ああ、まだまだ日本にも、こんなに素晴らしい若手の芸人さんがいるんだ」と純粋に感動しまして、それをきっかけに、自身も津軽三味線をたしなむようになりました。
質問 : 聞くところによると、プロ並みの腕前でいらっしゃるとか?
合田 : いえいえ(笑)。今も、時間を見つけては、「好きこそものの上手なれ」と思って、練習していますが、知れば知るほど奥深い世界で、まだまだ鍛錬が必要ですね。
質問 : 野球のご経験なくして、少年野球の監督を7年間務められたそうですね。
合田 : 3人息子がいまして、長男、次男共に、小学校の時に野球部に入部したのですが、私はまったく関与していなかったんですね。ところが、1年生になった三男坊が入った頃、当時ハマっていた大型バイクに乗って、ちらっと様子を見に行ったんです。そしたら、父兄のあいだで、「合田さん、キャッチボールくらいできるでしょう?」という話になりまして、そこから、あれよあれよという間に、監督までさせていただくことになったんです(笑)。自身は、水泳、サッカーなど、色んなスポーツを広く浅くやってきましたが、野球はまったくの未経験。思ってもいない展開でしたが、楽しくやらせていただきました。
質問 : 中国語はいつから学び始められたのですか?
合田 : 二十歳の時に1年半ほどアメリカに留学し、帰国したのが大学4年の夏休みでした。「せっかく時間もあるんだし、行ってみれば?」ということで、広東省深セン市の深セン大学に、これまた1ヶ月ほど留学することになったんです。なぜ、深センかというと、父が代表を務める当社の工場が市内にあったからです。今思うと、これはたいへん有り難いことなのですが、午前と午後と個別に、大学の先生に寮までお越しいただいて、プライベートレッスンも受けていました。個人的な意見かもしれませんが、英語と中国語って、文法がかなり似ているんですよね。当時は私も若く(笑)、アメリカでの英語生活をフルに体験したばかりでしたので、中国語を受け入れやすい土台ができていたのだと思います。先生が教えてくださる内容がスーッと入ってきましたし、話し言葉で分からない時は、筆談でコミュニケーションを取ることもありました。中国語も漢字ですから、大方の意味は通じるわけですね。
質問 : 趣味の範疇を越えて、本格的ですね。
合田 : 始まりはそうかもしれないですね。でも、今はそんなにペラペラしゃべれないです。一人で中国旅行に行って、困らないくらいのレベルといったところでしょうか。どちらかと言うと、身振り手振りの雰囲気先行で話していますから(笑)。

アジア進出と共に歩んできた30年。現在、中国・深センをはじめ、4つの海外拠点に独自の刺繍工場を展開

質問 : 刺繍のエキスパートであるゴーダグル-プ。ひとくちに刺繍と言っても色々ありますが、現在、多く手掛けているのはどのようなタイプの刺繍ですか?
合田: ジャガード刺繍やワンポイント刺繍、あるいは、婦人服に多く使われるコード刺繍から手刺繍まで、ありとあらゆる種類がありますが、大きく分けると、生地や衣服にじかに刺繍するタイプと、ワッペンの2種類があります。後者の場合は、主に中国の工場で製作し、日本をはじめ、ヨーロッパやアメリカなどのお客様に販売しています。
質問 : 山東省青島に設立した青島志彩服飾有限公司は、ウォルト ディズニーの認定工場にも選ばれた御社の中国第三の工場だそうですが、深センの工場は、さらに歴史が深いそうですね。中国でビジネスを行うにあたって、難しいと感じることはありましたか?
合田 : おかげさまで、深センの工場は今年で30周年を迎えました。父の代で、ある程度のベースはできていましたし、短期間でしたが、留学した経験も手伝って、私自身はそれほど違和感なく、中国市場にすんなりと入っていくことができました。そのまま30年が経ち、今があるという感じです。もちろん、日本と中国とでは、文化的な背景しかり、さまざまな面で異なる部分はたくさんありますが、私の知るかぎり、中国に対して、偏った先入観なく、日本でやってきたのと同じように真摯に取り組まれている方の多くは、事業をうまく軌道に乗せて、成功されているように思います。その一方、誤解を恐れずに言うと、「これだから中国は…」と苦言される方は、遅かれ早かれ、市場から退くことを余儀なくされているのかなというのがリアルな感触です。
質問 : 現在、海外拠点に4つの工場を構えていらっしゃるそうですが、責任者は皆、中国の方なのですか?
合田 : 中国人もいれば、日本人もいます。日本人は今、3人ですね。ビジネスを行う以上、どんな業種でも、さまざまな課題や解決するべき問題があるのと同じで、当グループでも、当然ながら、日本では日本の、中国では中国のそれらがあります。でも、至って日常的なことですし、それがあるからこそ、新しい展開が起きてくるのがビジネスの面白さだったりします。ただ、仮にちょっといいことがあったとしても、そこで成功したとは思わないようにしていますし、自分が成功したと思ったことも今に至ってありません。信念というと大げさかもしれませんが、成功したと思った時点で、没落が始まるという考えが自身の中には強くあります。今日も、明日も、ただひたすら、日々、精進ですね。
質問 : 素晴らしい心意気をお持ちでいらっしゃいますね。先ほどの中国語のお話に戻りたいのですが、深セン大学に留学していた当時から、すでに将来の仕事に活かすために学ぶという考えはありましたか?
合田 : 今思うと、父の教育がうまかったと思うんですが、3歳ごろから、アメリカ、中国、香港などに出張に行く際、よく一緒に連れて行ってもらっていたんですね。というより、“連れて行かれた”と言った方が正確かもしれませんが、そのおかげで、「英語や中国語を勉強したら、将来、きっと役立つだろう」という意識がおのずと芽生えていたんだと思います。小さい頃から、外国人と接し、外国語がまわりで飛び交う環境を経験しているので、異文化に対する抵抗もなかったですし、中学や高校でも、数学など、他の科目はさておき、「英語だけは、とにかくちゃんと勉強しておかないと」と思って、やっていましたね。
質問 : 日本にも、英語を話せる人はたくさんいますが、合田様のように、英語と中国語を話せる人は、まだまだ稀少な存在ですよね。
合田 : 良い意味で、父には“乗せて”もらったのかなと(笑)。それぞれに性格も違いますし、吉と出るかどうかは 先々になってみないと分かりませんが、かつて父が私にしてくれたのと同じように、今、息子たちを海外出張の際に連れていくことがあります。

比類なき日本の技術力、格別にグレードアップした中国の技術力をいかに融合させるかが、今後の課題

質問 : 分野は違いますが、ファイブワンのスーツも、日本の職人たちが、ハンドメイド主体で、すべてを仕立てているという点では、刺繍の世界と共通していると思います。日本、中国、その他のアジアの国々の職人の技術力については、どのように評価されていますか?
合田: 日本には、他には決して真似のできない、細やかな匠のワザがあると思います。その一方、中国の職人たちの技術力のレベルも全体的に、格段に上がっています。具体的な例を挙げますと、当社では30~40代の働き盛りで、かつ10~20年の経験を持つ技術者が多く育っていて、去年から進出したバングラデシュの工場には、彼らが出向き、技術指導を行っているんです。今後、アジアの他国に進出する機会が増えることも予想されますが、現状、中国スタッフが技術を教えるという流れは継承していくと思います。卓越した日本の技術力と、それに次いでグングン力を上げている中国の技術力、そして成長中の国々の技術力。これらをいかにミックスしていくかということが、これからの我々の課題ですね。
質問 : 最近、中国からの観光客が多く来日し、インバウンドが活況ですが、工場の工員をはじめ、中国の人々の生活水準は上がっているのでしょうか?
合田 : かつての比ではないくらいに上がっていると思います。マンションを1つ、2つ保有している社員もいますし、国全体として見れば、日本人以上にお金持ちの人も増えていますが、そうした変化に伴い、これまで中国人にとって、何はさておき、一番の動機であったお金が、昨今は、いかに豊かな生活環境を持つかということに取って代わった傾向がみられます。あと、日本に行くことも、モチベーションのひとつになっていますよね。まだ反日教育が根強くありますので、家族やまわりの人に、「私は日本が好きなんです」と言えない場合は往々にして多いです。でも、その半面、日本が好きだという人はどんどん増えています。このギャップをどのように埋めていくかが、今後、日中間の大きな課題のひとつではないかなと、個人的には見ています。
ファイブワンと出会って初めて知った、オーダースーツならではの極上の楽しみ
質問 : ところで、ファイブワンとは、オーダーシャツがきっかけでご縁が深まったそうですね。
合田 : ファイブワン大阪本店で仕立てていただいた黄色のリネンシャツが、最初の1着でした。オーダーというと、以前は、軽い気持ちで踏み込んではいけない高貴な世界という印象があったのですが、ファイブワンさんと出会って以来、そうしたイメージは覆され、シルエットや生地や色などを自分で選べるというオーダーだからこそ味わえる本当の楽しさを知りました。このジャケットも、こちらで仕立てたものですが、着心地も抜群ですね。
質問 : スーツやシャツを仕立てる時、ディテールを選ぶポイントは何ですか?
合田 : やはり刺繍屋ですので、既製服でも、以前は、必ずどこかに刺繍が入っているものを選んでいました。今でも、それは選ぶポイントのひとつではありますが、オーダーの場合は、ワッペンなどのワンポイント刺繍や、刺繍のディテールが入った別のアイテムを引き立ててくれるようなシャツやジャケットという視点で選ぶことが多いですね。
質問 : 中吉様は、合田様のビスポークを担当されていらっしゃるそうですが、おすすめする際に大切にしていることは何ですか?

中吉俊貴氏(以下、中吉): スーツでも、シャツでも、オーダーをお受けする際は、その方のキャラクターや生活背景を十分に加味したうえで、最上のご提案を差し上げることに尽力しています。先ほどご本人もおっしゃっていたように、合田様のスタイルの根底には、刺繍のワンポイントやディテールを取り入れたコーディネートがあります。お話させていただく中で、いかにご自身のキャラクターを大事にされているかが伝わってきましたので、その点は常に念頭に置いたうえで、シーズンやTPOに合わせたご提案をさせていただいています。
質問 : 今日、新しいジャケットのお仕立てが上がったそうですが、こちら、ブルーの無地かと思ったら、全面に同色の柄が入っているんですね。コントラストの効いたブラウンの裏地も素敵です。
中吉: 遠目に見ると無地に見えますが、近くで見ると柄が浮き立つように出てくるシャドー柄のペイズリーです。 色の相性が良く、イタリアでも多いブルーとブラウンの掛け合わせをご提案させていただきました。
合田 : 黒い色目のジャケットは数着持っているのですが、オーソドックスな生地のものが多かったんです。このジャケットは、中吉さんが言うように、近くでみたら、柄が出るところも気に入っていますし、私、たまにホワイトデニムを履くんですが、これなら、冬でも合わせて履けるかなと。貝ボタンを白にしたのは、そのためでもあるんです。着るのが楽しみですね。

質問 : ところで、ファイブワン限定のブートニエールを作られるそうですね。
合田 : はい。今、デザインの打ち合わせをさせていただいているところです。
質問 : 具体的な内容については、まだ秘密ですか?
合田 : 中吉:そうですね。(笑)
中吉: ファイブワン各店舗で、商品をお買い上げの先着50名様に差し上げる予定です。完成次第、ホームページでお知らせ致します。
質問 : 最後に、中吉様、あちらのニューモデルについてご紹介いただけますか?

中吉: 今シーズンから登場する新ライン「YMJシリーズ」のジャケットです。かねてより、30~40代の感度の高いお客様の多くからいただいていたご要望を元に改良を重ねた末、満を持して、お披露目させていただくことになりました。ジャケットは、モダンでコンパクトな今っぽいテイストとスタンダードを融合させた、ありそうでなかったタイトフィッティングな仕上がりになっています。着心地の良さを十分に考慮した仕立てですので、非常に動きやすい一着です。もちろん、スーツやパンツもご用意してございます。タイトフィッティングは初めてという方にも、ぜひファイブワンの店頭でお試しいただければ、幸いです。
質問 : 合田樣、中吉樣、本日は貴重な時間をありがとうございました。

インタビュー/文 岸由利子