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どんな社会情勢・経済情勢であろうとも「品質にこだわり続ける」ということ。

ハリソンズ・オブ・エジンバラ
CEO ジェームス・ダンスフォード

ハリソンズ・オブ・エジンバラは1863年、後のエジンバラ市長サー・ジョージ・ハリソンによって創設された名門マーチャント(服地卸商)。現在、英国内最大の家族経営マーチャント。トレードマークの赤いバンチで展開されるその高品質かつ豊富な服地コレクションは、世界中の名門テーラー、オーダーサロンで取り扱われ、欧州の王侯貴族をはじめとした世界中のVIPから愛されております。
ジェームス・ダンスフォード氏(42歳)は4代目社長。

質問 : さっそくですが、本日のファッションのポイントは何ですか?
ジェームス : もちろん英国生地であつらえたこのスーツです。実は私のスーツ、父から受け継いだものが結構あるんです。生地を裏返しにしてほどき、縫製も再度やり直すことで、父のものでもまだまだ着られるんです。なにより、英国ハリソンズの生地は、30年以上は着用できる大変質の良いものですので(笑)。
質問 : そんな質の高いハリソンズの生地ですが(笑)、日本市場に対しておすすめのラインを教えてください。
ジェームス : 全部オススメと言いたいところですが、あえて選ぶとすれば「プルミエクリュー」「クリュークラッセ」「ファインクラッシック」の3つです。どれも英国らしさがバランス良く出ているラインですし、日本の気候や好み、そして価格から判断して、この3つを挙げました。もちろん、もっと高級なもの、例えば「マルチミリオネア」(スパンカシミア99%・ビキューナ1%)なんかは最高の一言です。でも、それは TOO MUCH (やり過ぎ)というものでしょう(笑)。

質問 : 最近日本では「ミスティーク」が人気ですけど、イギリスではどうですか?
ジェームス : 「ミスティーク」は平織りとしては最高級の生地ですよね。イギリスでは25歳~40歳くらいの若い層に人気があります。オシャレな人たちが通う人気店からの注文を多く頂きます。それと、スーツの型はシングルが流行っていますね。でも、シングルの前はダブルが流行っていましたし、今はシングルだけど次はまたダブルが流行るかもしれません(笑)。ところで、あなたが今日着ているのは「クリュークラッセ」ですよね?
質問 : はい、その通りです。これはカシミア混ということもあり、体が包み込まれる着心地がありますね。程よい光沢もありますし、ビジネスシーンだけでなく、パーティーシーンでも気品あふれる生地だと思います。
日本では雑誌の影響もあり、イタリア生地がクローズアップされる傾向があります。そのため、光沢のある生地が上質として人気を得ていますが、イギリスの価値観はいかがですか?
ジェームス : 英国人は、光沢の強い生地を嫌います。日本と逆ですね。光沢がある生地は「安っぽい生地の証拠」と見る傾向が、高級好きな英国人からは特に多くあります。今から10~15年前にイギリスでも光沢の強い生地が流行ったことがあるんですが、その時にかなり粗悪なテカテカした生地が多く出回ったんです。そのため、光沢=糸が細くてもろいという印象が広まり、安っぽいという評価につながりました。だから、光沢がなく丈夫で耐久性のある生地こそが、品質の良い生地であるという価値観がイギリスにはあります。
質問 : イギリス、イタリア、日本、それぞれ光沢生地をめぐっては、色んな背景や解釈があるみたいですね。ところで、ジェームスさんはファッションのお手本はどうしているのですか?
ジェームス : 基本的にイギリスでは父親からファッションを教わるんですね。まず、父親のなじみのテーラーに連れられて行かれる。だからファッションはその家の伝統や好みが色濃く反映されているんです。それに比べて、日本はみんなスタイルが似てますよね。それは親からファッションを教わるのではなく、雑誌を参考にしているからだと思います。
質問 : ジェームスさんは昔からずっと同じお店でスーツを仕立てているんですか?
ジェームス : そうですね、基本はずっと同じ店で仕立ててますね。もちろん、父から受け継いだテーラーを変えることもあります。例えば、藤原さんは自分のお父さんと同じ格好をしたいと思いますか?
質問 : 父親と全く同じはいやですかね(笑)。
ジェームス : ですよね(笑)。そういった意味で父とテーラーを変えることは普通にあります。特に若い時は色々とテーラーのつまみ食いをしたくなりますし。あのブランドで作って、次はあっちで…というように。しかし、結局は父親と同じテーラーに落ち着くのだから、不思議なものです。

質問 : 家族からファッションを教わるというのは、日本にはあまりない文化なので面白いですね。そもそも、イギリスはファッション雑誌って少ないですよね?
ジェームス : イギリスには、『メンズEX』や『レオン』のようなファッション雑誌がほとんどありません。それと比べて、日本はテーラーや服に関して、情報がものすごい氾濫していますよね。というより、日本の方はディテールを知り過ぎなぐらい(笑)。
質問 : 確かにディテールには細かいですね。そういう私もこだわりがたくさんあるので、細かいかもしれません(笑)。日本の感覚では、ディテールを自分好みにできるのがオーダースーツの良さとする部分もあるんです。
ジェームス : それは間違いなくオーダーの良さでもありますよね。でも、どこまでこだわるかですかね。例えば、イギリスを歩いている普通の人にビスポーク(オーダー)と吊るしのスーツを見せたとしても、おそらくどっちがどっちかわからないはずです。所詮はそんなものでもあるのかなと。
質問 : ものづくりをする立場として、悲しい現実ですね(笑)。とはいえハリソンズの品質は素人目にも一目瞭然だと思うのですが、いかがでしょうか。
ジェームス : 当然品質にはこだわっていますし、自信もありますよ。ハリソンズは一貫して双糸(縦糸横糸)より、つまり耐久性のある強い生地にこだわっています。これは意外と知られていないのですが、全世界の95%にあたる生地が双糸ではなく単糸なんです。つまり、もろい。そのような生産環境の中で、ハリソンズがかたくなに縦糸横糸(双糸より)を守ることは、それが我々の独自性であり、品質の評価につながっていると考えているからです。

質問 : 品質にはとことんこだわりたいですよね。私たちもファイブワン製スーツを10年は着て欲しいと本気で考えているので、「ものづくり」の姿勢もそれだけ長く愛着を持ってもらえるものであるべきと、心がけています。
ジェームス : それは良い心がけですね。ものづくりは「品質が一番大切」であると、家族経営の歴史で実感してきました。それに、継続して品質の高いものを生産していると、品質が商品を適正な価格に導いてくれるんです。品質は裏切りません。

質問 : ハリソンズが今後目指す方向性を教えてください。
ジェームス : ハリソンズの経営戦略は、「品質にこだわり続ける」ということです。それはどんな経済情勢・社会情勢であろうとも、「高品質のものだけを作り続ける」という強い意志です。高品質なものを生産するには手間暇がかかるので、安くはなく、誰にでも買えるものではないかもしれません。だからといって、品質を落としたチープな商品を作り、市場に媚びるようなことは一切しません。
質問 : その姿勢が今のハリソンズの評価を物語っていますね。ファイブワンもハンドメイドを続けているので大量生産はできないし、していません。けど、品質を守るためならそれでいいのかな、と思っています。
最後に、日本のマーケットに期待することは何ですか?
ジェームス : もし、ブリティッシュスタイル、つまりイギリスの服を好きと言っていただけるのなら、表面的なディテールだけでなく、イギリスの「生活のスピリッツ」とか、何を基礎としてそのスタイルになったのかという「文化的背景」なんかにも興味を持ってもらえると嬉しいですね。
質問 : 本日は長い間、ありがとうございました。