TOPICS トピックス

ファイブワン トークセッションナンバー01 ゲスト:武井泰士 対談者:森俊彦 インタビュー:岸由利子

株式会社ヨネヤマ
代表取締役社長
武井泰士氏

スーツの聖地、サヴィル・ロウで修業した偉才、岸由利子が聞き出す、オーダースーツの魅力。

ゲスト:株式会社ヨネヤマ 代表取締役社長 武井泰士氏
対談者:ファイブワン代表 森俊彦氏
インタビュー&文:岸由利子

記念すべき第1回『ファイブワン・トークセッション』のゲストは、(株)ヨネヤマ 代表取締役社長の武井泰士氏。

食品パッケージング事業を中心に、企画・開発・デザイン・調達・在庫・配送・回収・リサイクルのリアルビジネスを提供する同社を率いる武井氏は、大学時代、ライフセービングに熱中し、その後は「ジャンニ・ヴェルサーチ」に勤務。80年代に輝いた政治家から芸能人・スポーツ選手の営業担当したのち、現職に転職。2010年より3代目社長に就任し、『100年企業』を目指すべく、舵取りする日々を過ごしています。「ファイブワンには、お金には変えることのできない価値を与えてもらっている」と語る同氏のオーダースーツへのこだわりを中心に、クラシックカーやドーベルマンなど、3つの“こだわり”をテーマにたっぷり語っていただきました。

「ヴェルサーチ時代に親しんだ“幅広のピークドラペル”を“自分の襟”にしたいと思いました」

質問 : 今日はお忙しい中、お越しくださりありがとうございます。最初にお聞かせください。ファイブワンのオーダースーツは以前からご存知でしたか?
武井泰士氏(以下、武井) : ファイブワンのスーツに出会うよりも、森さんとの出会いが早かったんですよ。たしか3~4年くらい前のことだったと思います。「武井さん、そんなスーツを着てちゃダメですよ」と森さんに優しくご叱咤、ご指導いただきました。
森俊彦氏(以下、森) : いえいえ、そんな。(苦笑)
武井 : おかげさまで、以来、離れられないです。
質問 : お召になられているジャケット、素敵ですね。こちらもファイブワンのオーダースーツですか?
武井 : はい、今季ものです。幅広のピークドラペルが、個人的に好きでして。本来なら一ツ釦の方がピークドラペルには合うとされているようですが、僕はあえて二ツ釦で誂えていただいています。あと、前身頃のVゾーンは深めが好きですね。
質問 : お店に入って来られた時、シャープな印象を受けましたが、ジャケットそのものを近くで拝見すると、かなりワイドで驚きました。これは、武井社長のこだわりなのでしょうか?
武井 : そうなんです。ヴェルサーチで働いていた80年代の頃、こんなシルエットのラペルに出会ったことがあるんですね。時を経て、改めて目にした時、懐かしさがこみ上げたと同時に、そろそろ自分の色にしたいなと思いました。セルフブランディングのひとつとして、“ワイドなピークドラペル”を自分の襟にしたいと思いました。
質問 : トレードマークということですね。
武井 : その通りです。
質問 : パンツについてはいかがですか?ジャケット同様、「これは譲れない」というこだわりがあれば教えて下さい。
武井 : パンツは、その日の気分で自由に選んでいます。ファイブワンのジャケットに、デニムを合わせたりもしますし、どちらかというとラクな感じの方がしっくりきますね。
質問 : 私自身、美大生時代に、ロンドンのサヴィル・ロウにある「ギーブス&ホークス」というテーラーで2年半ほど修行させていただいたのですが、イギリスとイタリアって、テーラリングの技術、ジャケットのシルエット、着こなしなど、同じスーツでもテイストがかなり違うと思いました。イタリアに造詣の深い武井社長からみた、“イタリア男性の装いの魅力”って、何でしょうか?
武井 : あくまで個人的な見解になりますが、イタリアって、きっと“定義”がないですよね。定番がないというか、外していることが当たり前みたいな。人それぞれに違ったこだわりがあって、“自分の定番”を楽しんでいるところが僕はすごく好きです。

イタリアという国は、つまるところ貴族社会。貴族の色だからなのかもしれませんが、オペラを観に行くと、一族の男性たちがみな、ネイビーのジャケットに水色のシャツを合わせていたりするのを見かけます。かっこいいんです、これがまた。シャツは水色にかぎると決めている人は、生地だけ微妙に違っていて、本当にいつも水色のシャツを着ていますし、ネクタイもまた、気に入った幅や長さのもの以外は付けないという人は、同じようなネクタイを何本も持っていて、常にそれを身につけていたりして…深いこだわりを感じます。
質問 : 流行りモノに飛びつくのではなく、自分が好きなものにあくまで徹する。それこそ、本当の意味での“おしゃれ”といえるかもしれませんね。ところで、武井社長にとって、“洋服”とはずばり何ですか?
武井 : 自分という“立体看板”を作るために存在するものですね。自分作りのためには、不可欠なものと言い換えられるかもしれません。いち会社の代表を務めさせていただいているので、社員にも、お客様にも、業界の人たちにも、いつも変わらない自分であることが重要だと考えています。例えるとしたら、某男性限定の芸能事務所の往年スターの髪型のように、不変のスタイルを保つ必要があるのと同じようにです。

その一方、変わらないスタイルが軸としてある中にも、いつもとちょっと違う新鮮さや良い意味での未完成さといった自分なりの“イタリア色”を出す装いは意識しています。すると、「武井さん、もしかしてイタリアがお好きですか?」と言われることがあるんですね。それを機に意気投合して、新たな関係が生まれたりもします。極端な話、100メートル先から歩いてきても、ひと目で僕だと認識していただけるような、そんな自分なりのイタリアを体現したいと思っています。
質問 : ご自身の中に取り込んだあらゆるイタリア的な要素が、毛穴という毛穴から出ているようなイメージですか?
森 : たしかに、武井社長はそういうオーラが出ていらっしゃると思います。先ほどのお話をうかがうまで、ご自分のイメージについてそこまで深く考え、しっかりと決められているとは存じ上げていませんでした。

新たにスーツを誂える際、色々と新しいご提案をさせていただくのですが、武井社長の考え方って、とことんブレないんです。少し新しいものをご提案すると、かなり悩まれてから、結果的に前回と同じものにされたりすることもありますし、それほど大きな変更はなく、小さなところで少しずつ変えるというスタイルでお作りさせていただいていますので、正直申し上げますと、「もうちょっと冒険していただきたいな」という気持ちがありました。でも、その奥底には前述のイメージへのこだわりがあるということが分かって、「なるほど、そうだったのか!」と腑に落ちて、今、とても嬉しいです。
質問 : すべての女性がそうとはかぎりませんが、往々にして、特に若い女性の場合、「あれも欲しい、これも欲しい」と色んなブランドに目移りして浮気する傾向にあると思います。一方、男性は年を重ねるごとに、自分が好きなもの、自分に似合うものが深みを増していく…お話を聞いていて、そんなことを思いました。
武井 : 似合うものと好きなものって、違うかもしれませんけどね。(笑)
質問 : そうですか?よくお似合いでいらっしゃいます。
武井 : 先ほどもちらっとお話しましたが、発言しかり、装いしかり、経営者の示す事柄がコロコロ変わると、お客様を困惑させるでしょうし、社員も付いてきづらくなると思います。ビジネス上、既存のやり方を変えて、重要な方向転換を行う必要性があることも無きにしもあらずですが、ある程度の次元で一定に統一しておく方が、関わる人にとってはやっぱり分かりやすいと思うんですよ。代表として先頭を切り、自分の生き様みたいなものを会社に浸透させるとなると、スーツやジャケットはなくてはならない大事なアイテムだと思っています。その人となりを表わすものですし、何より目で見て、一番分かるものですから。

「ネクタイは、森さんから教わった“引き算の美学”で楽しんでいます」

質問 : ネクタイについてはいかがですか?
武井 : 色や柄をどんどん足すのではなく、省いていくという“引き算の美学”を森さんから教わりました。ちょうどそんな話をしていた時、無地の紺のネクタイを付けていたのですが、面白い考え方だなと思い、これを機に色々と紺を広げてみようと決めて、現在に至ります。元々、柄物のネクタイはあまり好きでなかったこともあり、またスーツとは違った形のこだわりを楽しませていただいています。はい、今日も紺ですね。
質問 : ちなみに、武井社長はセレクトショップに行かれたりしますか?
武井 : たまに行きます。好きですね、洋服が。洋服って、世の中の変化を察知できるから面白いと思います。一例を挙げますと、僕がヴェルサーチで働いていた頃は、日本が全体的に景気が良かった時代なんですね。80年代という時代背景も関係していると思いますが、分厚い肩パッドの入ったダブルのスーツや極太のハイウエストのパンツなど、生地も趣くまま、ふんだんに使っていましたし、“ボンタン”や“ドカン”もあって、すごい時代でした。
質問 : ジャンニ・ヴェルサーチさんがご存命の頃ですよね?
武井 : はい、そうです。パンツのタックも、一体何本入っているの?というくらいたくさん入っていました。
森 : 今は2本でも多いと言われているんですけれども、3~4本入っているものもありましたよね。
武井 : ただ、パンツに関していうと、歩かないとかっこ良くないんですよ。立ち止まっていると、全然絵にならなくて。歩くと布が泳ぐので、動きが出て様になるので、当時は街を歩くのが楽しかったですね。
質問 : 今はパンツも細身でいらして、ジャケットもジャストフィットなスタイルでいらっしゃいます。加えて、みごとにフィットな体型だとお見受けしていますが、何か特別なメンテナンスをされているのですか?
武井 : 勉強とリサーチを兼ねて、スイーツの研究部会やコンビニのスイーツ部会に入っていた頃、15kgほど太ってしまった時期がありました。今のサイズは44ですが、当時は50。「ただでさえ丸顔なのに、これはまずい」と悩みました。追い打ちをかけるように、娘が多感な年頃になってきました。「いよいよまずいぞ。このままだと口も聞いてくれなくなるかも」。痩せなくてはと思い、紆余曲折ありつつも、結果的には元の体重に戻しました。以来、今も二十歳の頃の体重をキープしています。髪型を変えないのと同じように、やっぱり体型維持は重要だと思います。
質問 : ファイブワンのオーダースーツは、ファクトリーブランドでありながら、コストパフォーマンスが高いところが魅力のひとつとして知られていますが、それ以外に武井社長から見た“ファイブワンの魅力”があれば教えてください。
武井 : 「森さん、いつもの頼むよ」と言えば、“いつもの”を出してくださる。他ならぬ、森さんとの信頼関係です。先ほど森さんもおっしゃっていたように、僕の場合、スーツやジャケットのシルエットは大きくは変わらないんですけれども、生地や釦や裏地といったディテールはその都度、ご提案をいただきつつ、細かく変えて、誂えていただいています。それらの過去のデータがすべて森さんの頭の中に入っているので、仮に、実際の生地を見なくても、欲しいスーツ、欲しいジャケットを電話一本で安心して発注できます。「価格」と「価値」のバランスでいうと、僕にとってのファイブワンは、はるかに価値の方が高い。これって、お金では買えないものだと僕は思っています。
森 : お好みがピンポイントに絞られているので、その中から二つ、三つ、かすかな違いであっても、毎回新しいご提案をさせていただけるよう、尽力しています。太ストライプは、本来、選びにくい生地ですし、ビジネスの場でスマートに着こなすとなると、かなり難しいタイプのジャケットなのですが、しっかりと自分のモノにされている武井社長は、やはり素晴らしいと思います。実は最近、このジャケットを着られている武井社長を見た方々から、「私もこういうジャケットが欲しい」というお問い合わせやご注文をよくいただくことが増えているんです。
質問 : 影響力大のようですね。
森 : 本当にもう、ありがたいかぎりです。

「1953年式FIATのクラシックカー&とドーベルマン。こだわる男はとことんこだわる」

質問 : 休日もジャケットスタイルですか?
武井 : そうですね。ただ、ホワイトデニムや色落ちして膝に穴が空いたデニムなど、ビジネスシーンとは違った冒険を楽しんでいます。でも、休日もやっぱり、なんだかんだ言って、ファイブワンのジャケットに頼っちゃうところがありま。ちょっと変装したい時は、かなり違うイメージですけれども…。
質問 : え!?変装されるのですか?
森 : 武井社長はクラシックカーにお乗りになられているんです。まだ写真でしか見たことがないのですが、ピンクのパンツを履いておられたり…。
武井 : ピンクのジャケットもありますけどね(笑)。
質問 : どんなクラシックカーに乗られているのですか?
武井 : 1953年にピエトロフルアというデザイナーがモーターショーで発表したと同時に、製造に至らなかったFIATのプロトタイプに乗っています。ご縁があって、自分のところに来た車ですが、長い歴史の中、大事にバトンリレーされて、少しの期間だけオーナーになるわけなので、結果的には最後までは持てないですよね。今乗り始めてから、やっと3年目です。僕にとっては可愛い車です。
森 : そんな稀少な車が、今、日本にあるということ自体、すごいことだと思います。スーツも奥が深いですが、クラシックカーは、もしかすると長年お付き合いするという意味ではより果てしない世界かもしれないと、お聞きしていて思いました。純粋に憧れますね。
武井 : 森さん、今度、乗ってみますか?
森 : ありがたいお言葉ですが、今はひとつ新たな目標ができたということだけで胸がいっぱいです。イタリアやイギリスでも、車を大事にされている方がたくさんいらっしゃるのですが、イタリアの方って、自慢ではなく、さらっと写真を見せてくれたりします。それが二度見、三度見してしまうほど、すごい車だったりするんですけど、少なからず私の知るところ、武井社長の車は、群を抜いてすごい一台だと思います。
質問 : ご自身のこだわりについてさらっとおっしゃるところが、とてもダンディだと思いました。武井社長のように気品があって、紳士的な方って、日本にはまだまだ少ないのではないでしょうか?
森 : 武井社長をはじめ、ファイブワンの多くのお客様に共通するのは、お仕事的にきちっとご自身のイメージを作られていて、洋服にも気を遣われていることです。特に今、そういう時代になったのかなと、我々オーダースーツを生業とさせていただいている側からも、昨今、それを強く感じます。
質問 : スーツ、クラシックカーのこだわりについてお話いただいてきましたが、もしかして、自宅にはこだわりのお庭があったりするのでしょうか?
武井 : いえいえ、あとは犬だけですよね。ワンコです。
質問 : ワンコとおっしゃるからには子犬ですか?
武井 : いえ、ドーベルマンなんです。先ほど一時期急激に太ったことがあるという話をしましたが、元はといえば、一緒に散歩して痩せようと思ったのが、ドーベルマンを飼いはじめたきっかけでした。今年で11年目になります。7匹飼っていたこともありますが、今はお母さん犬と息子の2匹がいます。子どもたちの教育のためにと思って、出産も自宅でさせたんですが、逆に親の自分たちの方がハマってしまいまして…。満月の日に生まれてきて、いたく感動。もう、本当に可愛いんですよ。前日にどれだけ深酒していても、体内時計が反応してしまうのと、犬に起こされるのとで、毎朝5時半に起きて4km散歩するのが習慣になっています。
質問 : ちなみに、森さんは何か動物を飼われているのですか?
森 : 私は飼っていないのですが、今のお話を聞いて、羨ましいなあと心底思いました。ファイブワンの拠点は大阪でして、縫製工場も枚方市にあり、現在は東京の銀座店と行き来する日々です。お店でお客様と接することと、そこで得たご要望や情報を工場の職人たちに伝達することの両方を担っていますので、ドーベルマンを世話するほどの余裕は今のところはない状況なのですが、今日、武井社長からお聞かせいただいたお話に刺激を受けました。クラシックカーとドーベルマン、目標にさせていただきます!(笑)

現在、ファイブワンでは、平均して月に約1400~1500着のスーツを作っていますが、一人ひとりのお客様にとっては一着がすべてです。一着にもたくさんの情報が詰まっています。それらをきっちりと作り上げて、タイムリーにお客様の元に届けるということが、やっぱり一番大事だと考えています。日々精進ですね。
質問 : 武井社長、森社長、今日は貴重な時間をどうもありがとうございました。

インタビュー/文 岸由利子/文筆家

英国ロンドン・セントラルセントーマーチン美術大学FDM(ファッションデザイン・ウィズ・マーケティング科 ‹Bachelor of Arts›)を主席で卒業。在学中、スーツの聖地・サヴィル・ロウ1番地「ギーブス&ホークス」で日本人女性として、約2年半に渡る異例の修行を伝授。帰国後、『マルコマルカ』を創立。東京コレクションにて、最年少女性デザイナーとしてデビュー。現在、デザイナーとしては国内アーティストへの衣装デザイン提供を、画家としてはパリ・バルセロナなど海外を主な舞台とした作品発表を行う。これらと並行して、文筆家としては、芸術・ファッション分野を中心に、社会・医療・美容など幅広い分野で執筆中。